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Project
Story
01 循環型の持続可能な
地域デザイン
豊かな関係性が生まれる拠点
「MEGURU STATION」

「宮城県南三陸町の方々の“未来に誇れるまちづくり”という夢に、アミタも参画したい」―そんな想いで2015年に開所したのが、バイオガス施設「南三陸BIO」です。その後も同町では「資源循環」と「豊かな関係性の増幅」をキーワードに、地元の方々とアミタ、さらに他の企業も仲間に加わり、未来への挑戦が続いています。

その一つが、 日常のごみ出しをきっかけに、一般ごみの資源化とコミュニティの活性化を叶え、将来的には地域課題の統合的解決を目指すという壮大なビジョンを持った「MEGURU STATION」の実証実験です。

そして今、 この南三陸町発の持続可能な地域デザインが大きな注目を集め、他の地域でも「MEGURU STATION」の取り組みがスタートしています。

Relationship

いのちと資源がめぐる「南三陸BIO」

分水嶺に囲まれ、森里海の豊かな自然環境を有する南三陸町。アミタが復興ボランティアとして南三陸町を訪れたのは2011 年4月、東日本大震災後のことでした。震災により甚大な被害を受けた同町で活動を始め、半年近く経ったころ、社員たちの心に「これまで全国各地で持続可能な地域づくりに携わってきた企業として、本業でこの町に貢献できることがあるのではないか」という想いが芽生えました。

そこで、これまで各地で循環型地域づくりに関する事業開発の経験を積んできた櫛田豊久(当時43歳)が、2012年1月に本格的に現地に腰を据え、地元住民とともに考え、本音で語り合う生活を開始したのです。

「町民の方々と、南三陸町のありたい姿を夜な夜な議論しましたが、何かお困りごとはないですか?と聞くと、それぞれが感じている日々の問題は出てくるものの、本質的な課題は何なのか?というものはなかなか出てきにくいものです。林業、農業、水産業、観光業等、携わる仕事は違えども、この町を良い町にしたい気持ちは、もちろん皆同じです。『このままでいいのだろうか?』と心の中にある、言葉にならない不安やモヤモヤした気持ちにこそ、本当の課題、本当のニーズが潜んでいるのだと感じました。(櫛田)

こうして地元の方々との議論を重ねる中で徐々に浮かび上がってきたのが、子どもや孫に誇れる魅力的なまちづくりを目指すこと、すなわち、日本全国、そして世界のモデルとなるような循環型の地域モデルの構築・実践です。地域内で資源が循環し、そこからエネルギーが生まれ、さらに人々の未来を願う気持ちや豊かな関係性が増幅していくようなまちづくりが実現すれば、そこに暮らす方々の大きな誇りになるのではないだろうか?そう考えた櫛田は、地元の方々と具体的な町の将来像を描き、さらに「ちょっとやってみようか」と思える小さなアクションを提案し、自ら実践することで、少しずつ共感の輪を広げていきました。

森里海がコンパクトにまとまり、いわば地球の縮図のような地形の南三陸町。そこで、いのちや資源の循環を身近に感じられる取り組みの一つが、バイオガス事業でした。2015年10月には、南三陸町の住宅や店舗から排出される生ごみやし尿汚泥をメタン発酵し、バイオガスと液体肥料を生成するバイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)」を開所。生成されたバイオガスは電気と熱として、メタン発酵後の副産物として大量に出る消化液は地域の農作物を育てる液体肥料として活用するので、受け入れたごみは100%資源化されます。

「南三陸BIOの建設にあたり、大規模で効率重視の設計ではなく、人口減少が進む社会でも運用していけるような、コンパクトで外部環境の変化に強い設計が必要だと考えました。前処理(分別)施設と後処理(排水処理)施設をなくし、住民自身が家庭でごみを分別することと、消化液を液体肥料として地元農家の方が利用することで、事業としての持続性が上がり、効果的な運用を実現できています。住民の方々にとってはひと手間かかることですが、地域の中で循環を身近に感じ、お金や効率という価値基準ではなく、地域や社会のためになる社会的価値を大切にしたいという行動動機が働くことで、手間を惜しまずご協力いただけているのだと感じます。(櫛田)

そして2018年10月、地域内の資源循環のさらなる高度化に向け、町内の資源ごみ回収拠点「MEGURU STATION」の実証実験が始まりました。通常、家庭ごみは家の近くのごみステーションまで回収車が回収に来ますが、この実証実験では、公共施設が集まるエリアにある駐車場の一角に、ごみの回収場所を設置し、地元の方々にご自身で分別したごみを持ち込んでいただきました。併設するカフェやウッドデッキにはリユース市の開催やベンチの設置といった、コミュニケーションを促進する工夫を設けることで、日常のごみ出しをきっかけに住民同士の会話が生まれ、コミュニティの醸成につながるような拠点を目指しました。

住民たちが創る新たな居場所

“自分がごみを分別することで、無駄がなくなり、町に役立つ資源が生まれる。”「MEGURU STATION」は、訪れる方々にそんな社会の一員としての充実感を感じていただける場であり、さらに顔の見える関係性が生まれることで、分別して持ち込むという手間や面倒を超えた喜びにつながるのではないかと、櫛田は考えていました。
「『MEGURU STATION』にはあらゆる世代の人がやってきて、自然と交流が生まれます。ごみは生きていく上で、誰もが関わるテーマです。ですから昔の水汲みに訪れる井戸端のように『ごみ出しに来たついでに』と、コミュニティ参加への心理的なハードルが低いのだと考えます。それに、人間は社会的な動物ですから、誰しも少なからず人や社会と繋がりたい、何かの役に立ちたい、一緒に喜びを分かち合いたいという欲求(社会的動機性)を持っています。何か、そんな欲求をくすぐるような仕掛けができないか?と思っていました。(櫛田)」

アミタのステーションでなく「私たちのステーション」と感じていただきたい。そこで意識したのが、最初から運営側で全てを作りこまないことでした。例えば手作りの装飾品を作りかけのままにしていたところ、訪れる人が誰ともなく参加し、多くの住民が思い思いに飾りつけを進めることで空間がどんどん華やかになりました。設置した薪ストーブの周りでは火を絶やさぬように面倒を見る人や、置かれた丸太と薪割り機を使って自主的に薪割りをする人も現れました。

「住民の方々の能動的な動きにより、私たちの想定を超える出来事が次々と起こりました。住民自身が自由に参加できる場面=関われる『余白』を多く作ることで、参加者と運営者が混ざり合い、居場所と出番を感じた人々の主体的な参画が生まれていったのです。(櫛田)」

当初は約100世帯のモデル地区の方々で開始した実証実験でしたが、2カ月後の終了時には400世帯以上の方にご参加いただき、大変な賑わいを見せました。実験後のアンケートでは、46%の方が「地域の方と新しく知り合いになった」、37%の方が「外出する機会が増えた」、51%の方が「人と会話する機会が増えた」と回答してくださいました。

「MEGURU STATION」の現場に立ち、住民と接した宍倉惠(当時25歳)は、南三陸町で過ごした期間をこのように振り返ります。 「現場で特に印象に残っているのは、『自分がいてもいいんだ』と地元の方が感じられる居場所づくりができたという実感を得られたことです。ごみが無くても『MEGURU STATION』に来ること自体を楽しみにしている方がたくさんいらっしゃったことが、すごく嬉しかったです。」

複合的な課題解決に向けて

「MEGURU STATION」には、地元住民だけではなく、国や自治体、企業や大学など多くの方が視察に訪れました。注目されたのは、資源循環拠点としての機能に加え、人々がつながりを求めて年齢、性別を問わずこの場所に集っているという点でした。そこには、「MEGURU STATION」が人々の心身の健康に寄与することへの期待がありました。

そこでアミタは「MEGURU STATION」を、福祉・医療なども含めた地域の複合的な課題解決を叶える社会システムとして加速させるため、新たな取り組みを進めます。南三陸町の実証結果を基に、2019年12月には人口約12万人の都市、奈良県生駒市での実証実験を開始しました。

市民による主体的な価値創造・まちづくりに注力している生駒市。「MEGURU STATION」が地域における福祉課題の解決につながる点に深い関心を持っていただいたことがきっかけで、実証実験が実現したのです。参加住民へのアンケートでの継続希望率は91%と非常に好評で、実験後、住民主体で「こみすて(コミュニティステーションの略、生駒市版MEGURU STATION)」の運営が再開されました。

生駒市の「こみすて」の特徴として、一番顕著だったのが多世代間の交流です。放課後に集まった子どもたちが、ごみ出しに慣れない人に分別方法を積極的に教えたり、高齢者の荷物を持ってあげたりと、大人顔負けの働きぶりを見せてくれました。一方で、薪ストーブの使い方や薪割りを子どもたちが高齢者から学んだり、訪れた大人から宿題を教えてもらうような光景も見られました。「こみすて」を軸に、世代を超えた相互扶助の関係が生まれていったのです。

「誰かの、何かの役に立ちたい」という誰しもが持つ根源的な欲求を発揮できる舞台を、日常の営みの中につくり、一人ひとりが意志ある小さな行動を積み重ねること。それは決して難しいことではなく、現代社会が抱える大きな課題を解決していく最も確実な手段だとアミタは考えます。国や自治体に頼りきるのではなく、そこに暮らす人々が主体となって地域の課題を解決していく。そんなコミュニティによる新たな自治のありようこそが、持続可能な地域デザインの根本です。

循環を促す社会システムを
全国へ

地域の4大課題(少子高齢化・人口減少・雇用縮小・社会保障費の増大)は、今後ますます深刻化していきます。大都市に依存したり、限りある地域の財源が、廃棄物の処理や、健康寿命の延伸という予防措置が不十分なまま、社会福祉費に逼迫され続けるような地域運営は持続的ではありません。

アミタは「MEGURU STATION」を軸として、このような行政コストの民政シフトを目指しています。「MEGURU STATION」に住民自身が家庭ごみを持ち込むことで、資源化率が向上し、地域全体の廃棄物の収集運搬や焼却・埋立費用も削減されます。また、住民同士の交流が活発になることで外出機会が増加し、心身の病気予防・健康が促進され、医療福祉費の節約にもつながります。そうして削減できた費用を、「MEGURU STATION」の運営費や地域のエネルギー・資源・人材を活用したソーシャルビジネス創出、孤独を生み出さない自然と人の関係性が豊かな地域づくりのためにシフトできれば、町の持続性は大きく向上するでしょう。

アミタは、このように経済的・精神的に自立したコミュニティ(共同体)が主役の地域を日本中に広げること、即ち、コミュニティ自治ネットワーク社会を構築することで、持続可能な未来への希望を増幅させるべく、今日も奮闘し続けています。